「無」感性

先週末、東京から山形新幹線400系<つばさ>のグリーン車に乗った。
奮発したわけではなく、指定席が満席だったから。

その時、中年女性6人組と乗り合わせた。
会話から、大石田で下車して、銀山温泉に泊まるらしい。

この6人組、東京駅で乗車するやいなや、大声で話し出した。

私は、あまりの大声と、その会話の内容(いやでも聞こえてくるのであって、盗み聞きしていたわけではない)に、終始苛立っていた。

――シートに腰掛けたまま回転させようとして、
「動かないわ。壊れてるわよ」

――宇都宮を出たところで、
「仙台はもう過ぎたかしら」

――那須連山を見て、
「あれはなんと言う山かしらね。すごいわね」
――その直後、車内電光案内板に那須のことが紹介されるのを見て、
「私たちの話、聞こえたのよ。(といって案内を読み上げる)」

――郡山で
「雪がないわね。やっぱり暖冬なのかしら」

――板谷峠で
「すごい雪ね。やっぱり今年は寒いのね」

――月山連峰を見て
「やっぱり鳥海山はすてきね」

…車内の携帯電話は許されないが、やかましいおしゃべりは許されるのだろうか。

まあ、それはともかく。

いつからこんなに「『無』知識」「『無』感性」な大人が増えたのだろうか、と思う。

山形に行くのに仙台を通らないことを知らない。
郡山が雪が少ないことを知らない。
板谷峠は雪が多いことを知らない。
自分が1時間前に「暖冬」だと言ってたことを知らない(笑)。

それでもいいけど。…いいのか。

雪が多いことということが、どれだけ大変なことなのか知らない。
想像もしない。できない。
見たままを口に出す。
周囲の雰囲気を気にしない。気にならない。
自己中心。
他人の気持ちを慮ることもない。

かの国の宰相や、東京都知事がその典型だが、国民もそうなっているらしい。

「耐震強度偽装」といわれても、
「うちじゃなくてよかった、お気の毒にねえ」「早く建て替えしないと」

「サラリーマン増税」といわれても
「えーそんなに増えるの。困ったわ。もっとやりくりしなきゃ」

「防衛施設庁の口利き」といわれても
「なんだか難しいから、かかわらない」「どうせお役人は」

で思考停止して終わる。

何も考えずに会話する。
何も考えずに笑う。

たまにゃあ、いいでしょうよ。
いつもそればかりだと、いいようにやられるよ。

自己責任だそうですから。

…なんてことを考えてしまったのだが、これには実は伏線が。

その時読んでいた週刊文春に、「お笑い芸人がなぜウケているのか」的記事のなかで曰く、「意味のある芸能」ではなく、「無意味な芸」がはやっている、とあったのだ。
歌舞伎や能のような、ある程度の知識がないと面白くないものは無視され、何も考えなくてもいい芸(笑い)がウケる。
そんなものは「芸」とは呼ばないと思うのだが。

「風刺」の笑いがテレビにでない、というのもこの延長だろう、と思ったわけ。
ザ・ニュースペーパー松元ヒロをテレビでガンガンとりあげたら、ちったあ目を向けるんじゃないか。
まあ、制作側にも彼らを知らないやつらが多い、と何かの新聞記事にあったから無理かもしれないけど。

結局、大石田まで、彼女たちはグリーン車内で大声を張り上げて降りていった。
ようやく静けさを取り戻したグリーン車には乗客は私1人。

「ご乗車ありがとうございました。次は終点、新庄です」

コメント

  1. じなん より:

    お疲れ様でした。かなり、ご立腹ですね!
    関連して二つ。
    先月、九州○連の会議で宮崎へJRで行きました。
    総勢20名ほど、二つの車両に分かれて乗っていたのですが、もう一方の車両に乗ってたメンバーが騒いだようで、乗客の一人に、「あんたが責任者か!」と、説教をくらってしまいました。あとで車掌もやってきて、「いろんなお客様がいらっしゃいますので…」と、一応私に注意した。次回からは、指定でも席を離して予約しようかと…。
    4日に決○集会で「他言無用」を呼びました。ある程度知識があって笑えるとはまったくその通り。笑いの少ないネタもあったな。連発されると、だんだん笑いが少なくなり「シーン」となって怒ってくるような場面もあって、「お怒りはわかりますが、今日は笑ってネ」と、松崎氏。
    一応マスコミにも取材されることはあって、その時にはキッパリ返答するが、放送はされないらしい。
    さる高貴なご一家ネタもオオウケ。
    「密室以外で講演することはできません。『他言無用』に願います」で笑いを引き締めた。
    http://www.st21.co.jp/tagon/index.html

  2. billancourt より:

    じなん さん>
    おお、「他言無用」!松崎菊也さんですね。
    2年くらい前にライブ見ましたよ。
    確かに「他言無用」です(笑)。
    松崎さんも言ってた。
    風刺こそ笑いの本質。
    権力、すなわち強いものを嗤いとばすことこそ、真の笑いだと。

  3. くびき野 より:

     グリーン車で、ゆっくり過ごそうとしたのにお気の毒様としかいいようがありません。
     私が一番気になったのは、6人もいて誰も間違いを指摘する人がいなかったことです。たれも知らなかったのか、それとも、分かっていてもそんな間違いを指摘し合えない関係たっだのか、よくわかりませんが、後者の方だったとしたら、そんな人同士で楽しい旅行ができたのかどうか気になります。
     私はお笑いは好きですが、テレビに出てくるのは若手芸人ばかりで、もっとベテランの人の芸を見たいのに残念です。それでも、笑点の演芸コーナーにはたまに出てきますが。またラジオになりますが、NHKの真打ち競演や上方演芸会には味のある芸人が出てくるので、たまに聞いてます。
     

  4. billancourt より:

    くびき野 さん>
    実は最近、沖縄のお笑いにハマっております。
    弊HPからもLINKしているのですが、「オリジン」と「FEC」という2つの団体(プロダクション)があり、どちらもウチナーグチ全開で最高です。FECの喜劇「基地を笑え!お笑い米軍基地」は彼らにしかできないネタです。
    先日、テレビで、沖縄のお笑い(芸能)の巨人を特集した番組が2つ放送されました。
    『唄と笑いで戦った男~沖縄の巨人・照屋林助の生涯』と『戦争を笑え~命ぬ御祝辞さびら! 沖縄・伝説の芸人ブーテン』。どちらも見ごたえがある番組でした。沖縄のお笑いの原点を見ました。

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