自信のあるなし

『自信のあるなし』 宮本百合子


 私たちのまわりでは、よく、自信があるとか、自信がないとかいう表現がされる。そして、この頃の少しものを考える若い女のひとは、何となしこの自信のなさに自分としても苦しんでいることが多いように思えるのはどういうわけだろうか。
 一つには、女の与えられる教育というものが、あらゆる意味で不徹底だという理由がある。なまじい専門程度の学校を出ているということで、現実にはかえってその女のひとの心がちぢかまるということは、深刻に日本の女性の文化のありようを省みさせることなのである。
 けれども、自信というものに即してみれば、そもそも自信というものは私たちの生活の実際に、どういう関係を持っているのだろう。でも自信がなくて、といわれる時、それはいつもある一つのことをやって必ずそれが成就すると自分に向っていいきれない場合である。成就するといいきれないから、踏み出せない。そういうときの表現である。けれども、いったい自信というものは、そのように好結果の見とおしに対してだけいわれるはずのものだろうか。成功し得る自信というしか、人間の自信ははたしてあり得ないものだろうか。
 私はむしろ、行為の動機に対してこそ自信のある、なしとはいえるのだと思う。あることに動こうとする自分の本心が、人間としてやむにやまれない力におされてのことだという自信があってこそ、結果の成功、不成功にかかわりなく、精一杯のところでやって見る勇気を持ち得るのだと思う。その上で成功すれば成功への過程への自信を、失敗すれば再び失敗はしないという自信を身につけつつ、人間としての豊かさを増してゆけるのだと思う。行為の動機の誠実さに自分の心のよりどころを置くのでなくて、どうして人生の日々に新しい一歩を踏んでゆかなければならない青春に自信というものがあり得よう。

Line054

「自分に自信が持てない」という場合、自分の生き方が「好結果の見通しを持てない」「必ずそれが成就するといいきれない」という場合だと思います。
でも、そのもっと奥底にある「動機」や「本心」を大事にしろ、と言われているように思います。
うまくできるかどうか、成功するかどうかという自信じゃなくて、自分がしようとしていることにGOサインを出す自信を持てば、結果はこわくないし、何度でもチャレンジすることができます。

でも、自分だけでは、動機に対する自信を持ちきれないこともあります。
そんな時に支えてくれるのは、友人であり、仲間であり、愛する人です。
そして、自分も誰かを支えているといいな、と思います。

初めてこの本を読んだのは学生の頃だったか…20代であったことは間違いありません。
それ以来、迷った時にはこの文章を思い出すことにしているのです。

…迷いっぱなしですけど[E:coldsweats01]

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コメント

  1. Hoso より:

    お久しぶりです。
    僕も『若き知性に』をたしか21歳の時に初めて読みました。
    特にこの「自信のあるなし」は、僕たちを導いてくれる文章ですよね。悩んだり、迷った時に何度も読み返したくなる言葉です。
    自分がしようとしていることが、価値あることなんだという確信がある時、強い意志と感情が伴うものですね。百合子の言葉はまさに一つの真理を言い当てていると思います。
    実は、ちょうど最近もこの言葉を読み返したばかりでした。
    びっくりして、コメントしました。

  2. billancourt より:

    Hoso さん >
    それはまた、なんという偶然。
    ちょうど友人とメールしていて、ふとこの文章を思い出したものですから、本棚から「若き知性に」を引っ張り出してきたんです。
    「行為の動機」への自信、なかなか持てないんですけどね。

  3. billancourt より:

    Hoso さん >
    それはまた、なんという偶然。
    ちょうど友人とメールしていて、ふとこの文章を思い出したものですから、本棚から「若き知性に」を引っ張り出してきたんです。
    「行為の動機」への自信、なかなか持てないんですけどね。

  4. はっちい より:

     なんと奥深い文章。過去のことを思うと、「自信がない」という理由で逃げ回っていたことが多いことか。時には、まずやってみることも必要なのではないかと思いました。
     それにしても現代は、失敗することに厳しい社会であることかと思います。かえってトップいる人の方が、責任をとらず、自分には関係ないような態度をとることがなんと多いことか。実に嘆かわしいと感じる今日このごろです。

  5. はっちい より:

     なんと奥深い文章。過去のことを思うと、「自信がない」という理由で逃げ回っていたことが多いことか。時には、まずやってみることも必要なのではないかと思いました。
     それにしても現代は、失敗することに厳しい社会であることかと思います。かえってトップいる人の方が、責任をとらず、自分には関係ないような態度をとることがなんと多いことか。実に嘆かわしいと感じる今日このごろです。

  6. じなん より:

    『自信のあるなし』・・・、懐かしい(^^♪

  7. じなん より:

    『自信のあるなし』・・・、懐かしい(^^♪

  8. billancourt より:

    はっちぃ さん >
    「自信がある」人にはなかなかなれそうにない今日この頃です。
    じなん さん >
    懐かしいべ[E:happy02]

  9. billancourt より:

    はっちぃ さん >
    「自信がある」人にはなかなかなれそうにない今日この頃です。
    じなん さん >
    懐かしいべ[E:happy02]

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