幸福な愛はない
Il n’y a pas d’amour heureux
人間にたしかなものとては何もない その強さも
弱さも 心さえも 腕をひらいて友を迎えたと
思うとき その影は十字架のかたちをしている
幸福を抱きしめたと思うとき ひとは幸福をぶち壊す
人生とは 痛苦にみちみちた無常の別れだ
幸福な愛はない
人生は ほかの運命へと軍装をとかれた
あの武器のない兵士たちに似ている
朝 彼らが起きでたとして もう何んの役にたとう
夕ぐれにはまたなすことなく 彼らはさまよう
「これがわたしの人生だ」 とつぶやいて君たちの涙をこらえるがいい
幸福な愛はない
わたしの美しい愛よ 愛する人よ ひき裂かれた傷みよ
わたしはおまえを 傷ついた小鳥のように抱いてゆく
するとあのひとたちは わたしたちの通りゆくのを何気なく眺めながら
わたしの編んだ言葉をわたしのうしろでくりかえした
だがその言葉は おまえの大きな眼にあうと忽ち死んでしまった
幸福な愛はない
生きる道を知った時 そのときにはもう手おくれだから
わたしたちの心は 夜のなかで 声をそろえて泣くのだ
小さな歌ひとつつくるためにさえ 不幸が要るのだと
一つの旋律をあがなうためにも悔恨が要るのだ
ギターの一節のためにも すすき泣きが要るのだと
幸福な愛はない
苦しみをともなわないような愛はない
ひとの心を疼かせないような愛はない
ひとの心に熱い火傷とならないような愛はない
そしてきみへの愛も 祖国への愛も同じもの
涙で養われないような愛はない
幸福な愛はない
しかし それこそわれら二人の愛なのだ
ルイ・アラゴン 訳:大島博光
胃カメラをしましたが特に大きな問題はありませんでした。
んで、48時間ぶりにアルコールを注入したら、頭とお腹と、心がくらくらきました。
「メイちゃんの執事」を見ていたからだと思うのですが、頭の中で、ロッカトレンチがぐるぐる回ってます。
「会いたくて 会いたくて ~♪」
その弾みで、大好きなアラゴンの詩まで引っ張り出されてきた模様です。
アラゴンのこの詩は、1943年、フランスがナチスの占領下にあった時につくられたものです。
彼は「フランスの悲劇的な諸条件のもとで、どうして幸せな愛を持つことができたでしょうか?……共同の不幸の中では幸福はありえない、というのが、当時この詩でうたわれた主題です」と語っています。
でも、こんな風に単純に読んでもいいんじゃないかなあ。
「苦しみや傷を乗り越えてこそ、本当の愛が生まれる」、と。