10月28日に行われた「輝け世界に!伝えよう未来へ!憲法9条を守り生かす宮城のつどい2012」。
裏方として参加したので、講演も演奏もちゃんと聞けなかったのだけれど、舞台袖で聞いた大江健三郎さんのある言葉に、つい役目を忘れて聞き入ってしまいました。
この日の大江さんの演題は「『本質的なモラル』ということ」。
本人いわく「井上(ひさし)さんと違って、私は『やさしいことを難しく』話す…」。
ちょっとウケました。
それはともかく、この「本質的なモラル」。実に深かった。
大江さんが訴えた「本質的(根本的)なモラル(倫理)」とは、チェコ出身の「老齢の」作家、ミラン・クンデラ(『存在の耐えられない軽さ』を書いた人ですね)の言葉なのだそうな。ミラン・クンデラが語る「本質的(根本的)モラル la morale de l’essentiel」は、「次の世代の人間が人間らしく生きていける条件を妨げないこと。そして、妨げようとするものと闘うこと」。それは、いわば『次の世代に安心できる社会を残していく』ということ。この倫理を引き受けようではないか、と大江さんは訴えました。
そこまでのくだりで私は「なるほど!」と手を叩きたくなったのですが、話はこれで終わりではありませんでした。
大江さんは、「星の王子さま」のキツネのセリフを持ち出したのです。
そう、あの有名なセリフ。
「大切なことは目に見えない」ってやつですよ。この瞬間、私は電気が走りました。
「かんじんなことは、目に見えないんだよ」(定番の内藤濯 訳)
「肝心なことは、目に見えない」(池澤夏樹 訳)
「大切なことって、目には見えない」(管啓次郎 訳)
このセリフの原文は、
L’essentiel est invisible pour les yeux.
これ、覚えてたよ。何度も読んだから。
たしかに、 essentiel は辞書には「本質的な」とか「非常に大事な」って訳語が載ってるのだけど、気付かなかった。さすがの大江さんは、ミラン・クンデラの話から、キツネの教えを重ね合わせたというわけです。
で、大江さん、サン=テグジュペリは、この essentiel の部分は、何度か書き換えてこの言葉にたどり着いている、っていうんですよね。それは知らなかった。
大江健三郎さんの話に触発されて、その晩、星の王子さまを読み返した人、何人いたかしら。
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